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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)2178号 判決

控訴人 川野次一

右訴訟代理人弁護士 石川元也

右訴訟復代理人弁護士 西枝攻

同 間瀬場猛

被控訴人 金沢公男

右訴訟代理人弁護士 辻中栄太郎

被控訴人 福山甚一

同 岡崎庄三郎

主文

原判決中控訴人敗訴部分(被控訴人らに関しない部分を除く。)を次のとおり変更する。

被控訴人福山は、控訴人に対し、別紙目録記載(一)の土地の持分三分の一につき、奈良県知事の農地法五条の許可を条件として所有権一部移転登記手続を、同目録記載(二)の土地の持分三分の一につき、昭和二四年三月二五日の売買を原因とする所有権一部移転登記手続をせよ。

控訴人に対し、別紙目録記載(一)の土地につき、前項の許可を条件として、被控訴人金沢は、奈良地方法務局斑鳩出張所昭和三五年八月二日受付第一一二九号所有権移転登記のうち持分三分の一の部分につき抹消登記手続を、被控訴人岡崎は、同出張所昭和三九年五月二〇日受付第一四二五号所有権移転請求権保全仮登記のうち、持分三分の一の部分につき抹消登記手続をせよ。

控訴人と被控訴人金沢との間において、別紙物件目録記載(二)の土地が被控訴人金沢の所有であることを確認する。

控訴人の被控訴人らに対するその余の請求及び被控訴人金沢の控訴人に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも、控訴人に生じた費用の六分の一を被控訴人福山の、その一〇分の一ずつを同金沢、同岡崎の各負担とし、その余を各自の負担とする。

事実

第一、申立

控訴人は、「(1)原判決中控訴人敗訴部分(被控訴人らに関しない部分を除く。)を次のとおり変更する。(2)被控訴人福山(以下、原則として被控訴人福山、同金沢、同岡崎を福山、金沢、岡崎という。)は、控訴人に対し、別紙目録記載(一)の土地(以下、同記載(一)ないし(三)の土地を第一ないし第三土地という。)につき、奈良県知事の農地法五条の許可を条件として所有権移転登記手続を、第二土地につき、昭和二三年三月二五日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。(3)金沢は、控訴人に対し、第一、第二土地につき、奈良地方法務局斑鳩出張所昭和三五年八月二日受付第一一二九号(原因同年五月一六日競落許可決定)所有権移転登記(以下、金沢名義の競落登記という。)の、第一ないし第三土地につき、同出張所昭和三三年五月二〇日受付第六〇五号(原因同年五月一九日代物弁済予約)各所有権移転請求権保全仮登記(以下、金沢名義の仮登記という。)の各抹消登記手続をせよ。(4)岡崎は、控訴人に対し第一、第二土地につき、右出張所昭和三九年五月二〇日受付第一四二五号(原因同年五月一九日代物弁済予約)各所有権移転請求権保全仮登記(以下、岡崎名義の仮登記という。)の抹消登記手続をせよ。(5)金沢の控訴人に対する第一、第二土地についての所有権確認請求を棄却する。(6)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、金沢、岡崎は、控訴棄却、控訴費用控訴人負担の判決を求めた。

第二、原審昭和四〇年(ワ)第一六九号事件(甲事件という。)に関する主張

一、請求原因

1.第一ないし第三土地はもと福山の所有であり、第一、第二土地は、もと一筆(昭和四一年一二月二七日その二筆に分筆)で、現況農地であった。控訴人は、昭和二三年三月二五日大杉高秀、山崎音一と共同して、福山から、第一ないし第三土地を、そのうち農地であった第一、第二土地につき宅地に転用するため奈良県知事の許可を条件として、買受ける契約を結び、昭和三一年四月ころ右両名から第一ないし第三土地に対する各持分を譲受けた。第二土地の現況は宅地に変っている。

2.控訴人は、右売買後の昭和二三年四月二四日福山から第一ないし第三土地の引渡を受けてから、所有の意思をもって善意、無過失にその占有を開始し、仮にそれが大杉らとの共同によるとしても、両名から各持分を譲受けたことによりその共同占有を承継し、その後は単独所有意思をもって右占有を継続して一〇年以上を経過した。控訴人は、右短期取得時効を援用する。

3.しかるに第一ないし第三土地につき、金沢名義の仮登記が、第一、第二土地につき、金沢名義の競落登記及び岡崎名義の仮登記がなされている。

よって控訴人は、各被控訴人に対し前記申立記載の各登記手続をすることを求める。

二、請求原因に対する認否

(被控訴人福山)

請求原因のうち、第一ないし第三土地がもと福山の所有であったことを除くその余の事実を否認する。

(被控訴人金沢、同岡崎)

請求原因1のうち、第一ないし第三土地がもと福山の所有であったこと、第一、第二土地がもと農地であったこと及び第二土地の現況が宅地となっていることは認めるが、その余の事実は不知。2の事実は否認。3の事実は認める。

三、抗弁

(被控訴人金沢、同岡崎)

1.金沢は、昭和三三年五月一九日福山に対し金五〇万円を貸付け、これを担保するため、福山との間で第一ないし第三土地を目的とする抵当権設定契約と代物弁済予約をした。

2.金沢は、右抵当権実行の奈良地裁昭和三四年(ケ)第三一号競売事件において、第一、第二土地につき、昭和三五年五月一六日競落許可決定を得てその競買代金を支払った。

3.岡崎は、昭和三九年五月二九日金沢との間で金沢に対する債権を担保するため、第一、第二土地につき、代物弁済の予約をした。

四、抗弁に対する認否

抗弁2の事実は認め、1、3の事実は否認。

五、再抗弁

1.抗弁1の契約と予約は、通謀虚偽表示である。

2.競落許可決定当時、競落土地は一筆で現況農地であった(第二土地は宅地であったが、第一土地は農地であったから、全体的にみれば、現況農地であった。)のに、金沢は農地についての競買適格を有しなかったから、右競落許可決定は無効である。

六、再抗弁に対する認否

(被控訴人金沢、同岡崎)

再抗弁1、2の事実は否認する。第一、第二土地は、競落許可決定当時すでに宅地であった。

第三、原審昭和四〇年(ワ)第七三号事件(乙事件という。)に関する主張

一、請求原因

第一、第二土地は、もと福山の所有であり、金沢は、その甲事件抗弁1、2記載のとおり、競落によりその所有権を取得した。

よって金沢は控訴人に対し第一、第二土地が金沢の所有であることの確認を求める。

二、請求原因に対する認否

本件第一、第二土地がもと被控訴人福山の所有であったことを認め、その余の認否は、甲事件の抗弁に対する認否のとおり。

三、抗弁

甲事件請求原因2及び再抗弁のとおり。

四、抗弁に対する認否

甲事件請求原因2及び再抗弁に対する認否のとおり。

第四、証拠〈省略〉

理由

一、(イ)第一ないし第三土地がもと福山所有であったこと、(ロ)第一ないし第三土地につき金沢名義の仮登記が、第一、第二土地につき金沢名義の競落登記と岡崎名義の仮登記がなされていることは、控訴人と金沢、岡崎の間に争いがない。福山は(イ)の事実を明らかに争わない。

二、控訴人主張の売買契約

1.〈証拠〉及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、昭和二四年三月二五日大杉、山崎と共同して、福山から第一ないし第三土地を、そのうち当時一筆で現況農地(田)であった第一、第二土地(第一、第二土地が現況農地であったことにつき、控訴人と金沢、岡崎の間では争いがない。)については、宅地に転用するための奈良県知事の当時施行の農地調整法四条の許可を条件として、買受ける契約を結び、同年四月三〇日代金全額四〇万円を支払ったことを認めうる。右買主らの売買土地に対する持分は、特別の事情がないから平等と推定する。第一、第二土地が、昭和四一年一二月二七日二筆に分筆され、当時第一土地は現況農地であるが、第二土地は現況宅地であること後記のとおりであるから、第二土地部分は、前記許可なくして持分移転の効力を生じた。(前記各証拠によれば、右土地には建物があってその宅地化は恒久的なものであり、その周辺地も、第一土地は別として、殆んど宅地化していると認められ、またその登記簿上の地目も宅地に変っていること後記のとおりであるので、右効力を認めても農地法の趣意に反しない。)

2.前記各証拠と弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和二六年四月三〇日に大杉から、またそれ以前でおそくともその日までには山崎から、第一ないし第三土地に対する両名の各持分を譲受ける契約を結んだことを認めうる。しかし現況農地の本件第一土地の右各持分の移転については、その譲渡契約ごとに農地法による移転の許可を得ない限り移転の効力を生じない。また右土地と現況宅地の第二土地の右各持分の移転登記手続につき、中間者を省略して、福山に対し右登記を求めるには、これにつき福山と中間者の承諾を要するが、右承諾の事実を認めうる証拠はない。

三、控訴人主張の短期取得時効

1.前記各証拠によれば、控訴人は、前記売買による代金支払の際、福山から、大杉、山崎と共に第一ないし第三土地の引渡を受けてこれを共同占有し、また両名から前記持分を譲受けてからはその共同占有を承継のうえ、単独でこれを占有するようになり、以後その単独占有を継続して右引渡から一〇年以上を経過したことを認めうる。また右占有には、所有の意思を伴っていたものと推定される。

2.前記各証拠によると、右共同又は単独占有開始当時、第一、第二土地は、依然として現況農地であり(第二土地の部分についても、右単独占有開始のときまでに現況非農地に変換されたことを認めうる証拠はない。)、かつその宅地転用の許可もなく、このことは控訴人ら三名も知っていたと認められるので、仮に三名がその所有権を取得したと誤信したとしても、右誤信には過失があり、右各土地につき短期取得時効の完成を認め得ない。しかし占有開始当時宅地であった第三土地については、前記各証拠によると、右三名の右共同占有又は控訴人の右単独占有は善意、無過失にはじめられたものと認められるから、共同占有開始の昭和二四年四月三〇日から一〇年を経過した時点において、短期取得時効が完成した(最高裁昭和四二年七月二一日判決、民集二一巻六号一六四三頁参照)。

四、金沢主張の抵当権設定契約と代物弁済予約

1.〈証拠〉によれば、金沢は、昭和三三年五月一九日福山に対し金五〇万円を貸付け、これを担保するため、福山と第一ないし第三土地を目的とする抵当権設定契約と代物弁済の予約(金沢名義の仮登記の原因)を結んだことを認めうる。

2.右抵当権設定契約と代物弁済予約は通謀虚偽表示による旨の控訴人の抗弁事実を認めうる証拠はない。

3.そうすると、第一ないし第三土地につき、控訴人の金沢に対する金沢名義の仮登記の抹消登記手続請求は、理由がないから棄却する。

五、金沢、岡崎主張の競落と岡崎主張の代物弁済予約

1.金沢が、前項1認定の抵当権による奈良地裁昭和三四年(ケ)第三一号競売事件において、昭和三五年五月一六日第一、第二土地につき競落許可決定(金沢名義の競落登記の原因)を得て競買代金を支払ったことは、控訴人と金沢、岡崎の間に争いがない。前記甲第一号証、第七、八号証、金沢の原審供述及び弁論の全趣旨によれば、金沢は、昭和三九年五月一九日岡崎との間で、岡崎に対する債務を担保するため、右土地を目的とする代物弁済予約(岡崎名義の仮登記の原因)を結んだことを認めうる。

2.〈証拠〉によれば、第一、第二土地の登記簿上の地目は、昭和三一年三月九日付で田から宅地に変更され、その際、奈良県生駒郡斑鳩町農業委員会委員長の現況宅地の証明がなされたこと、右競売事件において、当時一筆であった第一、第二土地が非農地であるとの認定のもとに、農地法による移転の許可をその売却条件としないまま、農地についての競買適格証明や右の移転の許可を得ていなかった金沢に対する競落許可決定がなされたこと、右登記簿上の地目は、第一土地につき、昭和四一年一二月二七日第二土地との二筆に分筆されたうえ、年月日不詳の変換を原因として再び宅地から田に変更されたこと(これは、第一、第二土地につき、昭和四〇年一一月一九日付で金沢に対する処分禁止仮処分の決定を得た控訴人の申請によりなされたとみられる。)、右農業委員会委員長の現況証明は、第一、第二土地の現況がすでに昭和一五年五月三〇日に宅地に変換された旨の福山による虚偽内容の地目変換申告によってなされたことを認めうる。右競売事件における現地調査の具体的内容を認めうる証拠はない。右諸事情、前記検甲第三ないし八号証、証人弓戸武夫の原審証言、同山崎奈良一、同大杉信子の各当審証言及び控訴人の原・当審供述を総合すれば、競落許可決定当時、第二土地はすでに現況宅地であるが、第一土地は農業を営む控訴人が単独占有開始から、現在までその耕作を継続してきたことを認めうるから競落許可決定当時から現在まで農地である。

3.本件のように現況農地の甲土地(一〇九五平方米)と現況宅地の乙地(二〇八平方米)とから構成されるA土地(競売当時、登記簿上の地目が宅地である一筆の土地。現在甲、乙両土地に分筆)につき、全部現況宅地として手続が進められた抵当権実行の競売事件において、Yが確定競落許可決定を得て競買代金を支払った場合、Yは、(一)甲土地につき、農地法所定の知事の許可を条件としてその所有権を取得することができ、(二)乙土地につき、無条件にその所有権を取得することができる。その理由。(イ)右のような競売手続の瑕疵は、競売手続の中で認められた不服申立方法により救済を求めるべきであるから、競売手続外の別訴により右競落決定の無効を主張できない。(ロ)競売は実体上の面からみると、私法上の売買の性質を有するから、設例の場合、A土地につき私法上の売買がなされた場合と同じく、上記(一)(二)のとおり解するのが相当である。

それゆえ、金沢は、第一土地につき知事の許可を条件として所有権移転を受ける権利を取得し、第二土地については、無条件に所有権を取得した。

4.そうすると、(イ)第二土地につき、控訴人の福山に対する所有権移転登記手続請求は、持分三分の一の部分につき所有権移転登記手続を求める限度で理由があるから認容し、その余の右登記手続請求部分及び控訴人の金沢、岡崎に対する金沢名義の競落登記、岡崎名義の仮登記の各抹消登記手続請求は理由がないから棄却し、金沢の控訴人に対する第二土地が金沢の所有であることの確認請求は、理由があるから認容し、(ロ)第一土地につき、控訴人の福山、金沢、岡崎に対する各登記手続請求は、福山に対し、持分三分の一につき、奈良県知事の農地法五条の許可を条件として所有権一部移転登記手続を、金沢、岡崎に対し、右許可を条件として、金沢名義の競落登記、岡崎名義の仮登記のうち持分三分の一の部分につき各抹消登記手続を求める限度で理由があるから認容し、その余の右各登記手続請求部分及び金沢の控訴人に対する第一土地が金沢の所有であることの確認請求は、理由がないから棄却する。

六、よって上記四の3、五の4と異なる原判決中控訴人敗訴の部分は一部不当であるからこれを変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 潮久郎 藤井一男)

〈以下省略〉

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